2007年7月発足以来続いている一期一会の飲み仲間
● 今年も、日本中が相次ぐ日本人のノーベル賞受賞に沸いた。 2人受賞の快挙は、2014年の赤崎勇氏ら物理学賞の3人受賞に続くもの。これで2000年以降の日本人のノーベル賞受賞者数は16人(米国籍を取得した南部陽一郎、中村修二の両氏を含む)となり、米国に次ぐ受賞大国となった。自然科学分野の3賞に限れば、1901年の同賞創設からの累計でも、米、英、独、仏に次ぐ世界5位に躍り出た。 原動力は、バブル経済が華やかだった80年代に、潤沢な資金に後押しされて、画期的な基礎研究を成し遂げた日本人研究者が多かったことだ。往々にして、研究に対する評価が世界的に定着するまでにはタイムラグがあるので、2000年以降に受賞者が急増したとされる。 だが、手放しで喜んではいられない。受賞ラッシュはあと5年か10年ぐらいしか続かないとの悲観的な見方があるからだ。過去の栄光とは裏腹に、日本の研究開発能力は近年、急速に弱体化しているという <中略> ● 日本の基礎研究が息切れの気配 過去16年間のようなノーベル賞の受賞ラッシュは、今後も5年か10年程度続くかもしれない。素粒子物理学では、小柴氏がニュートリノを発見し、梶田氏が質量(重さ)を持つことを実証したが、それだけでは宇宙の質量の現状を説明できない。いわゆるダークマターの解明に、日本の“お家芸”が力を発揮する可能性は大きい。 「生理学・医学賞」の分野でも、今回、大村氏が受賞した微生物・寄生虫は、有望な分野だ。また、12年に受賞した山中伸弥・京都大学教授の万能細胞iPS細胞の実用化や、立体培養などでも日本の研究者が力を発揮している。 さらに、今年は大本命といわれながら受賞を逃した「化学賞」では、日本の研究者が世界に先駆けて大きな業績を残しているリチウムイオン電池の開発や人工光合成の分野がある。 ただ、気掛かりなのは、そうした日本の基礎研究が息切れの気配をみせていることだ。10年後には、また99年以前のように受賞ペースが落ち、受賞者は「数年ぶりの快挙」「数10年ぶりの快挙」と持て囃される時代に逆戻りしかねないという。 背景にあるのは、日本の経済力の低下だ。国単位でみると、研究開発は、経済力の勃興・拡大を追いかけるように進歩し、先進国の模倣に始まって次第に独自の基礎研究分野を広げながら、ノーベル賞の受賞につながるような大きな業績に至るパターンがある。そして、経済成長力が鈍るに従って、受賞者が減っていくのだ。 旧科学技術庁の資料をみると、日本は2000年当時、ノーベル賞の自然科学分野3賞の受賞者が6人と世界13位だった。が、昨年まで14年間で16人増えて、累計で米国(52人増の250人)、英国(9人増の78人)、ドイツ(6人増の69人)、フランス(5人増の31人)に次ぐ第5位に浮上した。2000年当時は、日本より上位にスウェーデン、スイス、オランダ、ロシア(旧ソ連を含む)など8カ国があったが、それらの国々は14年間の受賞が0~3人にとどまり、日本が追い越したのである。 しかし、日本経済は失われた20年を経験し、研究支援は他国のようなペースで増えなくなった。しかも、すぐおカネ儲けにつながる応用研究が重視され、ノーベル賞に値するような人類のためになる基礎研究には縁遠いテーマに取り組む研究者が増えている。日本の研究者の論文発表数が減少する傾向もみられるという。 さらに、公的な研究機関や大学の研究者のポストは終身雇用や長期雇用が前提でなくなり、数年単位に雇用期間を区切ったポストが増えている。短期間で大きな成果をあげることが、研究者の生き残りに重要な要件となっており、独自の道を時間をかけて追及するような余裕がなくなっているというのである。極端な例だが、STAP細胞をめぐる不正騒ぎの底流に、こうした余裕のなさがあったことは否定できないだろう。 今回、中国中医科学院の終身研究員が、大村氏と同じ「生理学・医学賞」を受賞し、中国人として初めて自然科学分野のノーベル賞の栄誉に輝いたことは、経済に続いて研究開発の分野でも中国が大きな飛躍を見せる兆しなのかもしれない。 研究者の能力や業績に対する厳格な評価は必要だが、あまり拙速を求めては研究者の将来の芽を摘むリスクがある。民間企業の研究所では容易ではないだろうが、少なくとも国費や公費を投入する研究所では、十分な時間をかけて基礎研究に取り組む環境を確保するなど、日本として抜本策を講じる時期を迎えている。
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