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外国人が心底惜しがる「日本の新幹線」事情 技術は世界一、ではサービスは?

   (資料:東洋経済オンライン 2017-11-24より)

安倍晋三首相肝いりの「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」委員や「日本政府観光局」特別顧問としても活躍しており、著書『世界一訪れたい日本のつくりかた』を上梓したデービッド・アトキンソン氏に、日本の「新幹線」が抱える問題について寄稿してもらった。

 

いちばん大切な路線にWi-Fiがない意味

 先日、JR東日本とJR西日本が2018年の夏ごろまでに、新幹線の車内で訪日外国人向けのフリーWi-Fiを整備して、順次サービスを開始していくと報道されました。

 これまでは2020年までに整備するという話でしたから、このようにスピード感をもって観光対応がなされていくのは、非常に喜ばしいことだと思っています。

 しかし、残念なことが1つあります。それはJR東海の対応です。

 「東京、京都、大阪」は「ゴールデンルート」と呼ばれ、訪日外国人観光客に最も人気のある、極めて重要なエリアです。実はこれらを結ぶ東海道新幹線をもつJR東海では、フリーWi-Fiが整備されていないのです。

 

 日本の新幹線には、安全面や運行面において世界屈指の技術が用いられていることは言うまでもありません。では、なぜその強いこだわりを、「ユーザーの快適さ」を高めることに用いられないのでしょうか。

 私には、JR東海という企業が「つくり手がいいと思うものをつくって消費者へ提供する」という、プロダクトアウトの発想が強すぎるからとしか思えません。要するに、自分たちが誇りに思っているスピードや正確性などという基礎的な技術は高度に磨き上げていますが、新幹線のユーザーの快適さなどは軽視しているのです。

 

 世界一の新幹線をつくれる会社が、フリーWi-Fiの整備くらい、できないはずがありません。要は優先順位が低いだけです。

 訪日外国人観光客のためにフリーWi-Fiを整備しないだけで、ずいぶん厳しい批判だと思う方もいるかもしれませんが、これは消費者軽視どころの話ではありません。実は、日本を代表する高速鉄道が「国策」にブレーキをかけているという、極めて深刻な問題でもあるのです。

 日本政府は観光戦略を実施しています。これまでの記事で繰り返しご説明してきましたように、人口減少で労働力人口が半減していく日本において、移民政策に頼らずに地方経済を活性化させていくという意味で、「観光」は極めて重要です。官民が一丸となって取り組んでいかなければいけない戦略です。

 

 皆さんも覚えがあるでしょうが、いまや異国の地での観光に「ネット」は欠かすことができません。ネットで観光スポットやレストランを検索して、ネットで移動経路を確認して、記念写真はその場でネットに上げて、祖国の家族や友人とシェアをします。

 ですから日本政府としても地方自治体としても、ネットでの観光情報の発信、そしてフリーWi-Fiの整備に力を入れてきました。観光庁が実施した調査では「フリーWi-Fiが少ないこと」が「もっとも困ったこと」の一つとして挙がっていたからです。政府や自治体は当然、多くの訪日外国人が利用する新幹線にも、そのような整備をお願いしてきました。

 

 外国人観光客にとって、新幹線での移動時間は、行き先にどのような観光名所があるのか、どういうお店があるのか、どういう土産物屋があるのかという情報収集をするには最適だからです。しかし、フリーWi-Fiが整備されていないので、外国人観光客は新幹線の移動時間を情報収集に充てることができないのです。

 

 私もかねて整備すべきだと訴えてきましたが、JR東海はこれらの要請に応えずにきています。

「検索してもらえない」のは大きな機会損失

 

 2016年にJR東日本とNTTデータが共同で行った調査によると、広域移動をした約253万人の訪日外国人観光客のうち、中国人観光客の46%、アメリカ人観光客の38%が新幹線を利用していることが明らかになっています。昨年、訪日外国人観光客は2400万人を突破しています。

 つまり、膨大な数の訪日外国人観光客に対して、さまざまな情報を発信する機会があるにもかかわらず、それができていないという状況なのです。

 そのあたりについてどう思っているのか。JR東海は「いまはスマホ対応をしているからWi-Fiはいらないでしょう」「そこまでネットが見たいならルーターを使えばいい」とでも考えているのでしょうか。

 

 しかし、海外でローミングしてネット接続をすると思いのほか高額になりますし、パソコンやタブレットを持ってきている外国人旅行者も多くいます。レンタルのルーターなどを持っている人もいますが、トンネルなどではまったくつながりませんし、それ以外の区間もつながりにくいです。

 観光客は、新幹線に乗っている間はゆっくり見られるので、スクリーンが小さいスマートフォンよりは大きなスクリーンで見たいはずです。おカネと労力を投入したネット情報発信を1人でも多くの外国人観光客に届けるには、フリーWi-Fiの整備のほうが望ましいことは明らかです。せっかく大金を使ってつくったコンテンツを見るための手段が整備されないと、そのコンテンツが無駄になってしまいます。

 

 このようにWi-Fi不要という結論になるのは、消費者軽視としか思えません。

 

 JR東海にそのような傾向が強いのは、もう1つの問題点からもうかがえます。

 実は海外からやってくる観光客には「Japan Rail Pass」という制度があります。JRグループ6社が共同して提供している乗り放題のパスなのですが、東海道・山陽・九州新幹線の「のぞみ」号と「みずほ」号は利用できません。新幹線のなかで最も速く、先端技術の詰まった「のぞみ」をカバーしていないパスは、外国人観光客からすれば、魅力に欠けるものだということは言うまでもありません。

 

 また、先日、海外から新幹線を予約することがようやくできるようになりましたが、Japan Rail Passは対象外となっています。外国人観光客の相当な割合がJapan Rail Passを使うので、Japan Rail Passを対象外にすると、そのシステムを作る理由がなくなります。

 細かいことを言えば、国内鉄道会社の予約システムはいまだに、発券後1回しか予約を変更できません。変更対応はたしかに手間がかかると思いますが、利用者からすれば不便なことこのうえありません。

 「新幹線の技術を世界に売り込みたい」と言う割には、世界が常識とする基礎的なサービスができていない。これでは、新幹線という「物」の評価は高くても、多くの外国人は「日本の新幹線は、途上国でもできることができていない」と受け止めます。「新幹線」の価値を著しく毀損していることは言うまでもありません。

 

日本人向けの発想からの脱却を

 なぜこのような「もったいない」ことになってしまうのかというと、これまで長く、新幹線は日本人の乗客向けのサービスだったからです。出張族など日本人が使い、日本人が満足すればいいということで、発想が止まってしまっているのです。

 ただ、このような考え方は先見性がないと言わざるをえません。これから新幹線の主要なユーザーだった出張族は激減していきます。長期的な視点をもてば、世界に技術を売り込むためにも、1人でも多くの外国人観光客に新幹線を体験してもらう環境を整備することで、世界に対して評価を上げていくべきなのです。

 

 現在、JR東海の新幹線は事実上、独占禁止法の対象外と言えるほど競争にさらされていない環境にあります。リニアができたあかつきには、「2本目」のルートができるわけですから、サービスの改善を促進するため、分社化を含めた競争を促す政策を考えるべきだと思います。

 独占禁止法とはそもそも何のためにあるかといえば、企業が独占することによって、価格が不当に高く、サービスが悪くなってしまうことを防ぐことが目的です。

JR東海の新幹線は、提供しているサービスの質と比べて価格設定が極めて高い印象です。これは「競争がないこと」の反映のように思えてなりません。最高速度やかかる時間などは確かにずば抜けているものがありますが、ユーザー目線にたてば、「何キロ出た、何分速く大阪に着く」ということと同じくらい、移動の間の快適さ、利便性が重要なのは言うまでもありません。

 このような基本的な整備を行っていないだけでも問題ですが、さらに国や自治体が必死に地方を盛り上げようとしている観光政策にも協力しない。これを「消費者軽視」と言わずしてなんと言いましょう。

(以下、次回) 


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