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<スマートフォン>危険な距離感 「個室」身にまとい歩く 現実からは隔離

毎日新聞 1112()1522分配信

 駅のホームでふと見回すと、並んでいた8人のうち7人までがスマートフォン(多機能携帯電話)を見ていた。電車が来るとそのまま前に……危なっかしいことこの上ない。「歩きスマホ」が急増し、事故も相次いでいる。だが当人たちは不思議なほどに無頓着。人にぶつかっても何もなかったように通り過ぎる。この奇妙な距離感はなぜ?【内野雅一】

 衝撃的な事故だった。

 10月16日午後8時15分ごろ、東武東上線大山駅(東京都板橋区)のすぐ西側にある踏切で、近くに住む47歳の男性が池袋行き快速急行電車にはねられて死亡した。「衝撃的」なのはその状況だ。

 警視庁板橋警察署の高口雅人副署長(49)が事故を振り返る。

 「遮断機は道の左右から下りるタイプで、真ん中にわずかに隙間(すきま)ができます。複数の目撃証言によると、男性は携帯電話の画面を見ながら、真ん中の隙間から体で遮断機を押し開くようにして踏切内に入っていった。そこに右から上り電車が来ました。家族の話では自殺する理由はないとのことで、警察では事故と判断しています。イヤホンはつけていませんでした」

 現場に行ってみた。

 警報機の音はかなり大きい。この音が耳に入っていたはずなのに、電車はまだ来ないと思ったのか……。「電車が鳴らした警笛に驚くようなしぐさをしたとの証言がありました」(高口副署長)。気づいた時は、もう遅かった。

 携帯電話やスマホを歩きながら操作する危険性は以前から指摘されてきた。国土交通省によると、スマホなどを操作中に駅のホームから転落した事故は、把握できただけで2010年度に全国で11件、11年度に18件。こうした事態を受け、JR東日本は立ち止まって携帯電話やスマホを操作するように呼びかけるポスターを掲示したり、車内放送で注意喚起したりしている。交通事故も起きている。今年5月には、千葉県我孫子市内の信号機のない交差点で、歩きスマホの30代の男性が右折してきた乗用車にはねられ、全治3カ月の重傷を負った。画面を見ていて、車に気づくのが遅れたという。

 歩きスマホが歩行者の視野にどんな影響を与えるかを研究している愛知工科大学教授(交通工学)の小塚一宏さん(68)は、たまたま東京出張中に冒頭の死亡事故を知り、翌日現場の踏切に足を運んだ。

 「男性が使っていたのは携帯電話だったようですが、スマホはツイッターなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の内容が刻々と更新されるので、携帯以上に画面に集中することになり、周りからの情報が入りにくくなります。音にも鈍感になります」。世界とつながることができても、歩きスマホは身近な現実から人を隔離してしまうと指摘する。

 小塚さんは、道路を渡る際、手ぶらの時とスマホで通話中、そしてツイッター中で視野がどう変化するかを、名古屋市内の交差点で視線計測装置を学生につけて実験した。「手ぶらでは周囲をよく見て、注意を払います。通話中は少し視野が狭くなる程度。それがツイッターになると視線が画面にくぎ付け状態で、時々上目で前方を確認するくらい。左右に視線が行かなくなり、横から来るものへの注意が極端におろそかになります」

 モバイル研究家の青森公立大学経営経済学部准教授、木暮祐一さん(46)は「携帯電話まではそれほどではなかった即時性がスマホで一気に高まり、画面を食い入るように見る時間が長くなって、より危険になった」と警告する。

 「私的な空間が公のところにしみ出してしまった」と指摘するのは「ケータイ化する日本語」の著者、東京大学教授(歴史社会学)の佐藤健二さん(56)だ。

 「SNSやさまざまなアプリケーションに集中できることで、本来家の中にあった私的な空間『個室』が外部に持ち出された状態になっています。歩きスマホは目に見えない個室を身にまといながら人が歩いているようなものです」。それが心理的にも人を隔離するという。「未知の人がたくさんいるのが公の空間。そこでは敬語を使ったり、道を譲ったりと、言葉や態度を改め人を気遣うのが当たり前。ところが私的な空間から出ないなら、人との物理的、心理的な距離感に気を使う必要がなくなる」。私には理解しにくいが、歩きスマホは居心地がいいに違いない。

 研究のきっかけは視覚障害者の悲鳴だった。「ガラケー(普通の携帯電話)のころは肩が当たる程度でしたが、スマホになって正面から体ごとぶつかってくる人が増えたというのです。障害者にしたら、そこにないはずの電柱にぶつかるような感じ。いきなりドーンですから怖い」。そんな声が増えたことに筑波大学医学医療系教授(バリアフリー論)の徳田克己さん(55)は危機感を強め、今年5月、首都圏や大阪の学生650人を対象に歩きスマホの実態を調べた。

 結果は驚くものだった。歩きながらスマホや携帯電話を使っている人とぶつかったり、ぶつかりそうになったりした人は6割を超え、足を踏まれた▽爪が割れた▽打撲傷や擦り傷を負ったといったけがも少なくなかった。そんな危ない思いをしていながら、スマホ保有者の9割以上が歩きながら操作すると回答。「ぶつかるのは、相手がよけないから」と自分勝手な言い訳をしているのだ。「歩きスマホはよそ見に他なりません。にもかかわらず、よそ見が悪いという意識がほとんどない」と徳田さんは指摘する。

 危険運転を繰り返す自転車利用者を市長が警察に検挙要請できるとした厳しい「自転車条例」を施行した大阪府摂津市。8月からはゴミ収集車から歩きスマホの危険性を訴える放送を流している。「条例で禁止をとの話も出たが、人に迷惑をかけていることをまず認識してもらう」(秘書課広報)という。いつの日か、法的な取り締まりが必要になるかもしれない。

 「使用者も増えており、今後は歩きスマホによる事故が多発すると考えられます」と小塚さん。人と軽くぶつかる程度ならいいが、冒頭の男性の場合は……。

 現場を訪れた時、踏切では歩きスマホの人が行き交う日常が時を刻んでいた。

≪私が、これまで何回もブログで呟いてきたことですが・・・、歩きながらスマホは、酔っ払い・わき見運転と同じです!≫

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