【第一人者に聞く免疫の新常識】
(語り手:大阪大学免疫学フロンティア研究センター招聘教授 宮坂昌之氏)
ー2020年7月18日 朝日新聞掲載より抜粋ー
<集団免疫は困難>
――「一定割合以上の人が感染すれば、それ以上感染が拡大しない「集団免疫」については?
一度獲得した免疫が長期間にわたって続くことが集団免疫の前提です。すぐに免疫が消えたら、多くの人が免疫を持っている期間がなくなってしまうから。でも、新型コロナの免疫が続く期間はとても短く、私は半年程度ではないかと考えています。免疫が半年しか続かなければ、集団免疫はいつまでたっても獲得できません」
「武漢医科大で8週間後に抗体量を再測定したら、軽症者で4割近く、重症者も2割で抗体が検出不可能なほど減りました。こんなに早く抗体量が減るのは、他のウイルスではあまり考えられません」
「破傷風やポリオなど、ワクチンを一度打てば免疫が数十年にも続く病気もあれば、インフルエンザウイルスのように3か月程度しか続ないものもあります。私は新型コロナはワクチンができても、インフルエンザと同じように有効期間は極めて短いものになるのではないかと考えています。
<体内時計が大切>
――免疫を強くする為には?
「強くするといういい方は不適切です。強すぎると健全な細胞を攻撃します。強くするのではなく、自分が持つ免疫をフル活用できる状態に保持することが大切。それにはまずストレスの少ない生活をする。リンパ球は血液の流れに乗って全身をパトロールしているので、有酸素運動をしたり、毎晩お風呂に入って体温を上げたりして、血流をよくする。免疫は体内時計が司り、昼は免疫が強くなり、夜は弱くなります。体内時計を毎朝きちんとリセットする。朝日を浴び、軽い体操や散歩をして、体内時計が狂わないようにするのは大きな意味があります。
――食事はどうですか?
「これ一つ食べれば免疫を強くする、なんていう食品はありません。バランスの良い食事を心がけましょう」
「免疫は加齢が非常に大きな要素です。50台を過ぎると免疫力は半分になると言われます。新型コロナの重症者の95%が60代以上というのはうなずける数字です。高齢者は免疫の経験値は高いがそれぞれの免疫が弱体化する。いわば免疫も老兵化し、数も減ります。元には戻せません」
----新型コロナは変異が速い?
「変異の速さはRNA(リボ核酸)ウイルスの特徴です。でも他のRNAウイルスに比べ変異の幅は大きくない。遺伝子をコピーするときに起きるエラーを修復するメカニズムを持っているのです。同じRNAウイルスであるインフルエンザウイルスは変異幅が大きく、動物からヒト、ヒトから動物へ感染する、とんでもない変異を起こす。でも新型コロナで明らかに病原性が高まった変異は今のところありません」
<接触8割減、不要>
――私たちの取るべき対策は?
「全日本剣道連盟に頼まれ、実験しました。
① 多くの飛沫は2メートル以内で地面に落ち、1.5メートル離れれば飛沫を浴びる可能性は極めて小さい
② マスクをつければ9割の飛沫は防げる
③ 微小飛沫は残るが換気すれば飛散すること
が確認できました。つまり、他人と1.5メートルの距離を保つ、マスクをつける、空気感染を防ぐために換気する、手洗いするなどの緩やかな接触制限と行動変容で対応できます。一時期言われた、人々の全体の接触率を8割減らすといったマスの対策は必要ないと思います」
「ワクチンが出来れば、新型コロナはインフルエンザと同程度の病原体となりますが、安くて良いワクチンが出来るのには2年以上かかるでしょう。
重症化を止める薬が出来れば普通の感染症になりますが、まだ時間が必要です。しばらくの間、人類は、新型コロナウイルスと共生していかなくてはなりません」
以上
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