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歴史のダイヤグラム

「線路は狭軌か国際標準軌か」

 日本の鉄道は、明治5年(1872)年に新橋~横浜間が開通したときから、1067ミリの線路幅を採用してきた。世界的には1435ミリが標準だったが、指導した英国は植民地と同じ線路幅でよいと判断し、事情の分からない大隈重信がそれに従ったとされている。1067ミリは狭軌、1435ミリは国際標準軌と呼ばれている。

 現在でも、JRの在来線や小田急、西武など関東私鉄の多くは狭軌である。新幹線や京急、京成、阪急、阪神などの私鉄は国際標準軌を採用しているが、全体的には狭軌の方が上回っている。

 日清戦争や日露戦争で植民地となった台湾や樺太(現・サハリン)でも、狭軌の鉄道が敷設された。一方、併合により植民地となった朝鮮では併合前から国際標準軌の鉄道が敷設された。朝鮮半島は大陸とつながっており、国境を超える列車を走らせるには国際標準軌の方が望ましかったからだ。

 

 日本でも東京~下関間の線路幅を国際標準軌にすべきだという意見が後藤新平らによって出されていたことはよく知られている。しかしその構想は、1975(昭和50年)年に山陽新幹線が全通するまで実現されなかった。

 アジアに限って線路幅を見てみると、中国や朝鮮半島などでは国際標準軌が多いのに対し、台湾や東南アジアでは狭軌や狭軌とほぼ変わらない1メートルの線路幅が多い。インドネシアのように、オランダの植民地時代には国際標準軌もあったのが、太平洋戦争中に日本が占領して狭軌に統一した国まである。

 このため東南アジアでは、日本の車両を走らせる条件に恵まれており、実際に日本の鉄道の中古車両が多く使われている。インドネシアで中古車両に乗った朝日新聞記者の吉岡桂子さんは、こう述べている。

 

 「車内に入ると『日本』を感じる。つり革、座席、扇風機、棚、消化器に残る漢字・・・。私が乗った車両には『神戸 川崎重工 昭和五十二年』と書いてあった。西暦でいえば1977年。40年余り前に造られたものだ。乗り心地は悪くなかった」(『鉄道と愛国』)

 同様の光景は、タイやミャンマー、フィリッピンでも見られる。JR東日本や東急、東京メトロなどの狭軌の車両がほぼそっくりそのまま使われているのだ。

 欧米や中国などと異なり、日本では鉄道開業時から狭軌が主流だったからこそ、東南アジアへの車両の輸出が容易だったわけだ。しかしその光景は、南洋への進出を基本戦略とし、41年に政府に採用されて太平洋戦争勃発の引き金となった「南進論」とどこかでつながっているように見えなくもない。

 <資料:朝日新聞 2024年2月17日 連載。 文:政治学者 原 武史氏>

 

 

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