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<老けない「筋トレ」のはなし>・・・その1

 資料:【文藝春秋】第96巻「老けない「筋トレ」教えます」 久野 譜也氏

                    (筑波大学大学院教授)

 

「移動能力」について

日本人の平均寿命は、女性が87.26歳、男性が81.09歳で、いずれも過去最高を更新し、世界で女性は2位、男性が3位です。 

 しかし、問題なのは、平均寿命の延伸に伴って、自立した生活が送れる「健康寿命」との差が拡大することです。この差は「寝たきり」や要介護の状態で過ごす期間を意味しますが、現在でも女性が12年、男性が8年と言われており、もし100歳まで生きるとすれば、この年月がさらに長くなってしまいます。

 寝たきりの状態は、本人にとってもつらいことですし、家族の負担も大きくなります。社会保障という面からもこれからの日本にとって大きな課題です。

 

 人は誰でも、周りに迷惑をかけることなく、「生きがいのある人生」を全うしたいと願っているものです。では、「生きがい」とは何でしょうか。人によって多様であっても、おそらく家の中だけで達成できる人は少ないと思います。人に会ったり、どこかへ旅行に行ったりすることで、人は幸福を感じるはずです。

 百歳まで生きがいを持った人生を送るという観点に立った時、私は「移動能力」の維持が必要だと主張してきました。この能力は二つに分けて考えることができます。一つ目は「立ち座りの能力」。この動作は日常生活の中で何度も繰り返して行われますが、例えば、1回立つのに30秒、1分かかるとすると、人間というのはなかなか動きたいとか出歩きたいという気持ちになれません。

 もう一つは、「歩行速度の能力」です。これは片側2車線、計4車線の横断歩道を青信号のうちにある程度余裕をもって渡り切れる能力と考えてください。この距離を渡り切れずに、途中で信号が赤になってしまうような場合は、本人も恐怖を感じ、家族からも「危ないから」と言われ、外出を控えるようになります。

 つまり、立ち座りが面倒になったり、歩行がおぼつかなくなることで、人は家にこもりがちになっていくのです。これが寝たきりへの近道になります。必然的に今まで以上に体を動かさなくなるので、筋肉が加速度的に弱くなっていくからです。

 ですから、まずは、外に出たり、人にあったりというアクティブな活動するための最低限の能力として、移動能力を維持しておくことが、人生百年時代に元気よく過ごす大きなポイントと言えるでしょう。

 

<確かに、私の経験でも立ち座りが面倒になった時期では、外に出歩くことが億劫になり、走れなくなった時は、ランニングもしなくなった経験がある。今は、昔ほどの運動をしていないのは事実である。ただ、それが、寝たきりになったり、ランニングやウオーキングをしたくなくなったわけではなく、曲がりなりにも、毎日仕事に出かけ、通勤歩行などの運動を辛うじて継続している分だけ、ましだと考えている昨今である>

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