健康のためにウォーキングを取り入れているという方は少なくないでしょう。
でもちょっと待ってください。あなたのやっているその運動法が、
健康になるどころか、逆に病気を引き寄せてしまうことも。
ではどんな運動が生涯歩ける健康な体を維持できるのか、
ここでは、生活の中で無理なく取り入れられる歩き方をご紹介していきます。
- 青栁 幸利 先生東京都健康長寿医療センター研究所群馬県中之条町生まれ。医学博士。トロント大学大学院医学系研究科博士課程修了。カナダ国立環境医学研究所、奈良女子大学、大阪大学などを経て現職。群馬県中之条町の住民5000人を対象に、約20年にわたり身体活動と病気予防の関係についての調査を実施(中之条研究)。そこから導き出された「病気にならない歩き方の黄金律」は世界中から「奇跡の研究」と称賛。著書は『病気にならずに100歳まで歩こう』(扶桑社)など多数。
“歩けば歩くほど健康になれる”の落とし穴
これまで定説とされていた「1日10000歩以上歩けば健康になれる」という健康神話。最近では「1日8000歩以上」とされていますが、「健康のためにはたくさん歩くことが好ましい」と思っていませんか?同じように、「定期的にジムに通ってハードな筋トレをしたり、有酸素運動をしたりしているから大丈夫」という発想も危険信号です。
先月までの連載「免疫講座」でもご紹介しましたが、過剰な運動は免疫力を低下させ、病気になりやすくなります。それに、無理なウォーキングによって膝を痛めるなど、かえって健康を害してしまう可能性も。また、せっかくジムに通っていても、ジム以外の時間をダラダラ過ごしたり、大して体を動かしていないのに運動をした気になったりしては元も子もありません。
大切なのは、1日24時間をどのように活動しているかです。生涯病気になることなく健康で過ごすために、普段の生活でどの程度歩けばよいかをお伝えしていきます。
自分の体力はどれくらい?老化度チェック
歩行には筋力や柔軟性、持久力、平衡性が関わっており、歩くのが遅くなるということはこれらの体の機能が衰えているということになります。
まず初めに、自分の歩行速度を測ってみましょう。5メートルの歩行の速度を測り、図表の値に収まっていれば同年輩・同性の7割の人々と同程度の体力があると判断できます。この値までいかなかった場合は体力が低下しているので、筋トレを加えるなどの対策が必要です。
この他に、高齢者が自分の歩行速度がどれくらいか簡単にチェックできるのが横断歩道です。日本の横断歩道は1秒間に1メートル歩く目安で長さと青信号の時間が設定されています。男女共に、80歳未満でギリギリ渡り切れるというのが平均値です。
年齢別・性別標準記録
男性 | 女性 | |||
---|---|---|---|---|
年齢 | 普段の速さで 歩いた時(秒) | できるだけ速く 歩いた時(秒) | 普段の速さで 歩いた時(秒) | できるだけ速く 歩いた時(秒) |
65〜69歳 | 3.2〜5.0 | 1.5〜3.1 | 3.5〜5.5 | 1.8〜3.7 |
70〜74歳 | 3.5〜5.6 | 1.8〜3.6 | 4.0〜6.8 | 2.2〜4.4 |
75〜79歳 | 3.8〜6.2 | 2.1〜4.1 | 4.5〜8.1 | 2.6〜5.1 |
80〜84歳 | 4.1〜7.4 | 2.4〜4.6 | 5.0〜9.4 | 3.0〜5.8 |
85〜89歳 | 4.4〜7.4 | 2.7〜5.1 | 5.5〜10.7 | 3.4〜6.5 |
出典:青栁幸利『病気にならずに100歳まで歩こう』(扶桑社)
病気を予防する歩き方“奇跡の研究”中之条研究とは?
歩数だけでなく中強度の活動時間が大切
「中之条研究」とは、青栁先生の生まれ故郷である群馬県中之条町の住民5000人を対象に、約20年にわたり行った身体活動と病気の関係についての調査・研究です。
人間の活動は、水泳の選手など特殊な事例を除き、歩数とその中に含まれる中強度の活動時間という2つの要素で説明できます。このことから、住民の方々に歩数と運動強度を計測できる身体活動計を24時間(入浴中以外)、365日つけてもらい、歩数と活動状況をモニタリングしました。これにより、病気の予防には個人の体力に応じた中強度の活動が欠かせないこと、そして、どの程度活動すればどんな病気を予防できるのかも分かったのです。
研究室での実験やアンケート調査ではなく、実際の生活の中から健康づくりのヒントを得ようという思いで始めたこの研究は、世界から“奇跡の研究”と称賛され、様々な企業や地域で取り入れられています。
中強度とは会話ができる程度の早歩き
中強度の活動とは、簡単に言えば「鼻歌は歌えないが、何とか会話が続けられる程度の早歩き」です。速度を早めるためのポイントは、歩幅を意識すること。人は老化と共に歩幅が狭くなり、それによって歩くスピードが遅くなります。また、普段何気なく歩いている時、人は自分にとって一番エネルギー効率がよい歩幅で歩いています。歩幅が広くなれば自然と歩行速度も上がり、無理なく中強度の活動ができるようになるのです。
病気と歩数&中強度の活動時間の関係
下の図は、中之条研究から導き出した1日あたりの歩数と中強度の活動時間に対する病気との関係図です。例えば高血圧症を防ぐには1日8000歩、その内中強度の活動が20分必要ということになります。
ここで大切になるのが歩数と中強度の活動時間のバランスです。中央のラインに近いほど病気予防の効果があり、ラインから遠ざかるほど歩数または中強度の活動時間のどちらかが足りていないことになります。病気の予防には歩数と活動強度のバランスがカギとなるのです。
▶ 次回は「肥満・メタボを防ぐ歩き方」についてご紹介します。