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療養後の「寝たきり」を防ぐ

 <元気に、キレイに> 筋肉を「貯筋」

 

 年齢を重ねても、元気に自立した生活を送りたいという願いはだれでも抱いているのでは。「いざというときのために、筋肉を鍛えて貯めておくことが重要」と、東京大学名誉教授の福永哲夫さんが提唱したのが、「筋肉貯筋」だ。

 

 けがや病気で入院して寝て過ごすと、筋肉が減ってしまう。退院しても自分で歩けなくなってしまうことにもなりかねない。

 貯筋で重要なのは脚の筋肉だ。椅子から立ち上がったり、階段を上がったりといった動作は、脚の筋肉が少ないと難しいという。福永さんの研究によると、腕の筋肉は60歳くらいまで大きく減らないが、太ももの前の筋肉「大腿四頭筋」は、年齢とともに筋線維が細くなる。つまり、筋肉が減る。20代に比べ30代、40代・・・と減っていき、50歳以降は年1%も減る。20代を100%とすると、70代は8割を切るという。

 

 福永さんによると、太もも前の筋肉の量は、70歳だと一般的に体重1キロ当たり1020グラム。だが、10グラムは寝たきりになる境目だ。だから、11グラムあっても安心ではない。病気やけがで寝込むと、太もも前の筋肉は2日間で1%のペースで減っていくという。「体重1キロ当たりの筋肉量が20グラムあれば、筋肉が減っても鍛えれば元の生活に戻ることができる。でも、筋肉貯筋が十分になくて10グラムより減ると寝たきりになってしまう。筋肉は人から借りることができず、自分で鍛えて貯めるしかない」と話す。

 

 福永さんは、高齢者でも負担が少なく、筋肉を鍛えることができる「貯筋運動」を考案した。手の支えなしで椅子から立ち上がれるなら立った状態で行い、「太もも前側」「股関節回り」「ふくらはぎ」「お尻の横」「おなか」を鍛える5種類だ。椅子、あるいは畳に座って行うプログラムもある。特別な道具は必要なく、負荷をかけるのは自分の体重なので、鍛えるときの怪我も心配ない。

 

 例えば、立った状態で太もも前を鍛えるのは、椅子に座ったり立ったりを繰り返す運動。椅子に浅く座り腰幅に足を開く。両手は前方の椅子などに置く。福永さん作詞の「貯筋のテーマ」の詞を米国の民謡「線路は続くよどこまでも」のメロディーにのせ、詞の1行で座り立ちを2回するとちょうどいい速さと回数になる。80代で動きが遅かった人も、3か月続けると動きが速くなり、歩行もスムーズになったという。

 

 貯筋運動の普及を推進する健康・体力づくり事業財団は指導者を育成している。指導者の研修で講師を務める日本女子体育大学教授の沢井史穂さんは「正しい姿勢で行うことが大切なので、最初は指導者について行うことを勧める。指導できる人が増えるよう取り組んでいる」と話す。

 

 同財団の研修を受け、試験をパスした指導者が各地で教えている。指導者の花田明子さんは、近畿地方で開く健康体操教室で貯筋運動を取り入れる。「私たちの目標は100歳でも自分の足で歩くこと」と参加者に語りかける。参加者は自身の状態に合わせ、立った状態、座った状態を選び、貯筋運動をする。新型コロナウイルス対策で、教室を休止した地域もあるが、「貯筋運動は家でもできるが、閉じこもっているのもよくない」。感染対策を徹底して教室を継続している地域もある。

 

 健康・体力づくり事業財団はホームページ内の「貯筋運動プロジェクト」

http//www.health-net.or.jp/)で、貯筋運動の効果や行い方の動画、指導者の一覧を紹介している。

 

(資料:朝日新聞 20201010日(土)「Re ライフ on Saturday」より)

 

 

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